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  | ■Yagimai Wonderland!!/八木田麻衣スケジュール 「八木田麻衣のオーマイジャストフィット」 TBSラジオ公開収録
 1996年2月16日(金) まんがの森大宮店
 
 使い捨てカイロって、どこに売ってるんだろう。
 2月16日金曜日、東京は、冷たい雨のカーテンに包まれていました。
 4時を告げる時報に耳を傾けると、ぼくは答えの見つからないまま、麻衣ちゃんの待つ大宮へと向かうことになりました。
 
 遅れぎみの埼京線がすべりこんだ大宮駅は、地下も深くの21番線。
 とりあえず、キヨスクでも覗いてみましょうか。
 「どんと(使い捨てカイロ) 100円」
 あるものですね。寒がりの麻衣ちゃんに、あったかいプレゼント。
 乗り越し精算をすませて一歩大宮駅を出ると、いつからか雨は雪に変わっているようでした。
 黄金色のイルミネーションに透き通る白い雪。
 麻衣ちゃんとの出逢いの夜にふさわしいロマンティックな風景が、そこにあります。
 軽くあたりに目をやってから、ぼくは麻衣ちゃんの待つまんがの森を目指して、小雪の中を歩きだしました。
 まんがの森大宮店は、駅からちょっとだけ奥まった通り、ビルの1階にある小さな明るい店です。
 外の雪景色が嘘のように店内は暖かく、ぼくは麻衣ちゃんが出てくるまで、しばらく並んだ本をぼんやりと眺めていました。
 
 6時をすこしだけ過ぎたころ、背中から、いつもの聴きなれた声が響いてきました。
  
  声の方を振りかえると、そこには落ち着いた黒のファッションに身を包んだ麻衣ちゃん。ぼくに向かって、まっすぐに近づいてきます。
 見つめる瞳に気づいたのか、麻衣ちゃんは立ち止まると、まっすぐぼくに向き直りました。
 一瞬だけ止まる時間。
 四角い顔…(ごめんね) 。
 ぼくが恐る恐る頭を10度だけ傾けると、麻衣ちゃんもまったく同じ動作で頭を下げます。
 再び動き出す時間。
 
  麻衣ちゃんの、得意文句。
  
  淡々と語り始める麻衣ちゃんを囲む、10人弱のファン。それにマイク持ちの男性とマネージャー(と思われる)嬢。
  
  いつもの声といつもの笑顔。ちょっと大人っぽい髪型を除いては、普段と変わらない麻衣ちゃんです。
  | スタッフ: | じゃ、始めましょうか。せっかくですから、みなさんもっと近くに。 |  
  ぜいたくなこと言うなよ。ぼくそこで思いました。
  | 麻衣: | ぼくはバレンタインにチョコレートをもらいました。でも、素直に喜べません。なぜなら、それが2歳年上の人からだったからです。 |  
  や、思うだけじゃいけないんだな。麻衣ちゃんと2wayで盛り上がれる方法。思うだけじゃだめ。言葉に出さなきゃあ。
  
  間があいた。チャンス。ここしかないっ。
  
  麻衣ちゃん(マイク)に向かって、いきなり声を上げるぼく(笑)。
  | 麻衣: | 麻衣ちゃん、どうすればいいか教えてください。 |  唖然こく麻衣ちゃん&スタッフ、かなり想定外の展開らしい。
  
  ちょっとあせる麻衣ちゃん。
  
  なぜかあやまるぼく。
  
  しどろもどろになる麻衣ちゃん。ちょっと困った笑顔も見せる。
 突然アットホームに転じた空気に、台本などはどこかへ飛んでしまったようです。
  
  言葉が乱れる麻衣ちゃん(笑)。
  
  一人ではしゃぐ麻衣ちゃん(笑)。
  
  ”ちょー”って、使用禁止じゃなかったっけ?
 収録はもはやボロボロ(笑)。これは、あとで編集する人が大変そうです。
 1本目終わり。
 
  この人が仕事以外のことを口にするのを、はじめて聞いた。
  | スタッフ: | ぼくも、チョコレートもらえなかったんですよ。 |  
  今日は、みんななんか変。麻衣ちゃんの気分もどこかハイ。何があったんだ?(ぼくのせい?)
  | 麻衣: | わたし、あげなかったからねー。義理チョコはあげない主義だから。 |  2本目。
 
  しっかりしてくれ!
  | 麻衣: | これが、も、ちょーおもしろくって、これが、んー、 |  
 収録が2本終わって、安堵の表情を見せる(笑)麻衣ちゃん。
  
  囲んだファン一人ひとりに頭を下げる。
 でも、いつまでたってもぼくの方は向いてくれません。
 なんで? 避けられてたり…?
 ひととおり頭を下げた麻衣ちゃん、ようやっとぼくにご挨拶してくれる、と思いきや。
 麻衣ちゃん、まっすぐぼくに向き直ると、微笑むとも何とも言えない微妙な表情で、ぼくの目を見つめるのです。
 しばらく止まる時間。
 四角い顔…(ごめんね) 。
 ぼくは恐る恐る頭を10度だけ傾けます。
  
  
  麻衣ちゃんもまったく同じ動作で頭を下げます。
 再び動き出す時間。
 台本を丁寧にたたむ麻衣ちゃん。
 今のは、一体何?
 控室に引き上げようとする麻衣ちゃん。広い方を行けばいいのに、わざわざ、ぼくと本棚の間の狭いスペースを抜けようとします。
 そんなことしたら、また目が合っちゃうじゃない。
 歩きながら、ぼくの目を見る麻衣ちゃん。
 やっぱり…。ぼくも麻衣ちゃんを、負けじと見つめかえす。
 三たび、止まる時間。
 四角い顔…(ごめんね) 。
  
  
  動き出す時間。今日は麻衣ちゃん、どうかしてる。
 ぼくの目の前30cmを通過する麻衣ちゃん。それでも、まだぼくの目を見ています。
  
  
  ちょっとだけ微笑む麻衣ちゃん。まぶしすぎる笑顔が、すぐそこにある。
  
  ぼくの言葉を軽くかわし、扉の向こうへ消えていく麻衣ちゃんでした。
 
 麻衣ちゃんが出てくるまで店の外で待つことにしたぼくでしたが、外はいつしか強まった雪がうっすらと降り積もっていました。
 ぼくは、懐にしまった「どんと」をたしかめました。
 どうしようか。
 手ぶらでくる麻衣ちゃんに、こんなの荷物になっちゃうかな。
 シックな麻衣ちゃんのファッションには、ちょっと合わないかな。
 Ladyに何よ、とか思われるかな。
 ぼくは黄色い街灯かりを見上げました。
 プレゼントのつもりで買ってきたけれど、渡していいものなんだろうか。
 同じく麻衣ちゃんを待つほかのファンから一人離れて、ぼくは自問自答をくりかえしていました。
 やっぱり…。
 そんなぼくでしたが、しばらくして店の入口に3人の影を認めると、あわててそこに駆け寄りました。
 麻衣ちゃんはスタッフとともに、厚手のコートに手袋という重厚ないでたちで現れました。そして店を出ると、まるでなにかをさがすようにまわりを見まわします。
 ぼく…え?
 麻衣ちゃんはちょっと離れたところにぼくを見つけると、またしても真正面に向き直って目を見つめます。
 止まる時間、もう4度目です。
 四角い顔…(これも4度目) 。
  
  ぼくが笑顔で頭を下げると、麻衣ちゃんは、いままで見せたことのない優しい笑顔で応えてくれました。
  
  
  
  立ち去ろうとする麻衣ちゃんを、穏やかに見送るぼくでした。
 やっぱり大人の麻衣ちゃんに、「どんと」なんて悪いよ。今日はもう、渡さないでもいいな。
 ところがその時、一人のファンが麻衣ちゃんに近寄ると、ちょっとしたビニールの包みを手渡しました。
  
  中味を覗く麻衣ちゃん。
  
  ぼくは一瞬で考えを改めました。
 どうせ荷物ができたんだから、これも渡してしまおう。せっかく買ったんだ。もう進むしかないよね。
 ぼくは、去り行く麻衣ちゃんを早足で追いかけました。
  
  立ち止まって振りかえる麻衣ちゃん。
  
  差し出す麻衣ちゃんの右手に、ぼくは自分の右手をかさねました。
  
  この人が喋るのも始めて聞いたのですが…。
  
  麻衣ちゃんは、ぼくからのプレゼントを確かめると、意外にも嬉しそうな声を出しました。
  
  
  
  明日って? なぜかはわからないけれど評判がいい。勇気を出して渡してよかった。何でも動いてみれば、道が開けてくるかもしれないのですね。
  
  
  立ち去るぼくの背中で、まだ盛り上がってる麻衣ちゃんら。
  
  何をしていいのかわからず、とりあえず右手を上げるぼく。
  
  
  もう何が何だかわからない。
 麻衣ちゃんに軽く会釈を残して、ぼくは麻衣ちゃんとは反対の道を、足早に大宮駅へと向かったのでした。
 うん。
 ぼくはひとりうなずきました。何かがつかめたようなこの気持ち。
 麻衣ちゃんと、もっともっと仲良くなれそうな予感。
 ぼくは、吸い込まれるような黒い空を見上げました。
 降り続く白い雪は、どこか麻衣ちゃんとぼくを祝福してくれるようでもありました。
 今この街に麻衣ちゃんとぼくがいて、同じ雪に包まれ、同じぬくもりを感じている。
 うっすらと雪化粧をした夜の街。雪の白は、純粋の白。無垢の白。
 真っ白なキャンバスに、二人の未来が浮かびます。
 ぼくは、もう一度だけ大宮の街を振りかえりました。
 きっと、今日という日は記念日。
 麻衣ちゃんとぼく、新しい二人が、今、ここで、始まったのです。
 
 
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