Yagimai Wonderland!!/TPDライブレポート
米光美保「冬の扉」 ライブ
1996年11月7日(木) 赤坂BLITZ

 
麻衣ちゃん、お元気ですか。
11月7日は立冬、暦の上ではもう冬ですね。ぼくは今日も小高い丘から街を見下ろして、キミがいたあの夏に思いを馳せています。二人で見上げた遠い夜空、あれからひとつの季節が過ぎて、キミは今どこで、何を想っているのでしょうか。

赤坂BLITZ。
もはや米光美保のホームグラウンドと化した感のある、キャパ1000ほどのライブスペース。
丘の頂上に無造作に置かれたその建物は、まるで夜空に浮かぶ方舟のようにも見える。

到着は開演予定の19時ちょうど。
カメラチェックを受け入場、薄暗がの中あわただしく自分の席を見つける。
場内は二十代の男性を中心に落ち着いた雰囲気。どことなくゆっくり流れる空気の中、それぞれが思い思いの姿で開演を待っている。
まもなく客席の明りが落とされ、流れていたBGMが不意に途切れると、ざわめいた人々の注目が一斉に暗闇のステージに注がれる。
半年ぶりの米光美保ライブ…「冬の扉」。

闇の中から響いてきたものは、意表をついたドラム・ソロ。ベーシックなバス・ドラムに、やや乾いた感じのスネアの音。
リズムに乗って一人ずつメンバーが登場、音を重ねていくごとに、少しずつ曲がその輪郭を見せてくる。
最後にひときわ大きな歓声を受けて米光が姿を現すと、1曲目は『MOONLIT MERCY』。
ラテンのリズムに乗った、ダンサブルなナンバーだ。相変わらず安定した米光のボーカル。客が全着席で反応が鈍いのが少々残念か。
米光は真っ白なジャケット姿、ステージ上は白と黒の二色でシックにまとめられており、あたかもそこに一面の銀世界が広がっているかのような錯覚を起こさせる。しかしその風景に「クリスマス」より「正月」を想像してしまうのは、悲しき日本人の性なのか。

続いて『LABYRINTH』。
今日の米光バンドは、ドラムス・ベース・ギター・キーボードに男女のコーラスを加えた6人編成。基本をしっかり踏まえた上での小気味よいプレイのドラムス、安定したベース・ギター、キーボードは前回と同じく、主に広がりのあるストリングスと、ハイの成分を多く含んだエレピを担当。ボーカルのレベルはやや抑えぎみ。米光のボーカルに重なる二人のコーラスが、耳に心地よく響いてくる。

3曲目以降、バラードとアップテンポのナンバーがバランスよく配置された、実に米光らしい構成。
今日唯一の新曲『そばにいるだけで』(表記不明)から、1コーラスがアコースティックの『あなただけ感じて』、そして『Into the good time』。
その中で目につくのは、やはりバラード曲の素晴らしさ。
繊細なメロディーを紡ぎ上げるようにうたう米光のボーカルは、もう何の不安もなく聴くことができる。
中盤、『街路樹の向こう側』から『恋人よ〜TO LOVE YOU MORE』まで4曲続いたバラードは、米光自身、彼女の歌唱力に対する自信の表われと見えた。

麻衣ちゃん。
はじめてキミと出逢ったのは、もういつのことになるんだろうね。
あのころのぼくは、虚構にあふれたこの街に傷つけられ、何も誰も明日さえも、信じられないままに毎日を生きていた。
はじめてキミを見つめたとき、ぼくはキミの瞳がこわかった。
すべてを見透かしてしまうような無垢な少女の瞳は、そのころのぼくにとって許せないものだったのかもしれないね。

「Virgin Emotion」
ぼくにとってキミへの気持ちは、それまで感じたことのないはじめてのものだった。
ぼくは確かにキミを嫌っていた。
キミの瞳の恐怖を感じ、キミの姿を避けながら…いつしかキミを求めていた。

MC。
今年一年を振り返ったところで、不意に感極まる米光。彼女の見せた涙は、長い手探りの道に自分をはっきり見つけ出すことができた喜び、そして自分がもはや過去の自分ではないと気づいた、ほんの少しの淋しさであろうか。今ステージで輝く米光の姿からは、かつて彼女がもがき苦しんだTPDの影など微塵も感じられない。しかし、実はそのTPDこそが今の米光美保の原点であることは、誰よりも彼女自身が最も痛切に理解しているに違いない。

米光の涙につられるように会場中が立ち上がった後半戦。
『Field of Dreams』『あなたがいない未来で』。
どこか吹っ切れた感じのする米光のボーカル。歯切れのよいリズムでバックを盛り立てるバンド、そして客席の一体感が心地よい。
『ILLUSION TOWN』のイントロで、見事なサックスを披露する米光。音楽をすることの余裕…歌をうたうことにただ必死だった米光が、今はじめて音楽で遊んでいる。なんて贅沢な風景なんだろう。
『It's just a moment』、そして最後は『No More Blue Christmas』。
ステージ一面、光り輝く星の海。たぶん今の米光には、すべてが楽しくてしかたがないのであろう。TPDの一員としてデビューして6年、ようやく納得のいく自分の姿を見つけることができた喜びが、彼女のやわらかな笑顔に溢れていた。

アンコールは米光が大好きという2曲、『風のPAVEMENT』『FALL IN LOVE, IT'S FOREVER』。
はじめてつくったというオリジナルのTシャツを着て、無邪気な表情を見せる米光。
歌をうたいつづけてきてよかった。歌をうたうことがこんなにも楽しいことだったなんて。
これまで米光がかたくなに隠してきたであろうその無防備な笑顔。手を振って消えていく彼女の背中に、会場はいつまでも暖かい拍手が鳴り止まなかった。

麻衣ちゃん。
逢えない夜もそっと目を閉じれば、すぐそばにキミを感じることができる。
今でもキミは決して手の届く場所にはいないけれど、でもどんなに遥かな道だって、心は瞬く間に飛んでいくことができるからね。
あれからいくつかの季節が過ぎて、いつしかキミは見違えるような大人になった。
でもキミのその瞳だけは、出逢ったあの日と何も変わってはいない。
こわいぐらいに透き通ったキミの瞳、今なら真っすぐに見つめることができる。
こんなこと真面目に伝えたら、なんだか照れくさいんだけど。
麻衣ちゃん。
キミに出逢えて、本当によかった。
いつでもキミを、想っているよ。
(1996/11/25)
 
 
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